2014年8月11日 のアーカイブ

穏やかなお盆を

2014年8月11日 月曜日

台風一過、お蔭様で被害もなく、安心して境内清掃に汗を流すことができました。

厳しい暑さが戻ってきましたが、神社下の御神田では朝から神奈川県神道青年会の担当者が草刈りに精を出していました。

午後から産土講(うぶすなこう)の役員さんが集い、9月21日(日)に第65回産土講を行うことになりました。

生産者にとっては台風被害が一番の心配であり、穏やかなお盆を過ごし、実りの季節を迎えたいところです。

鳥居の内から  本夕

台風一過 静かな夕暮れ

昨日は台風の状況に気をもみながらも、神葬祭、五十日祭・埋葬祭、お盆の祖霊祭など、お葬式や祖先のまつりのご奉仕がありました。

今週は御霊(みたま)まつりが続きます。

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--- 平成26年8月11日  『 神社新報 』  盆行事 家庭のまつりの行方 ---

今年も月遅れ盆の8月15日が近づいてゐるが、もとよりわが国の盆行事は仏教行事のみで説明できるものではない。

各家庭では幽世(かくりよ)の御霊(みたま)を現世(うつしよ)に迎へる忌火(いみび)が焚(た)かれ、盆棚(ぼんだな)に御馳走(ごちそう)を供(そな)へてその祖霊(それい)をもてなし、集落では櫓(やぐら)を組んで盆踊りがおこなはれる。盆は、祖霊を鎮めるだけでなく、この世の人々の心をも癒(いや)す。それは死者と生者とが一体となるひと時であり、一家団欒(いっかだんらん)、さらには世代を超えた一族の交流の場ともいへよう。やがて、御霊は送り火に送られて幽世へと還(かえ)り、その後も私たちの生活を見守り続ける。盆行事は、古くから祖霊信仰に纏(まと)はるわが国の伝統的な風習であった。

以前はごくありふれた光景であった盆行事だが、今日においては家庭環境や住宅事情、地域社会の変容などにともなひ、さまざまな変化を余儀なくされてゐるといへよう。しかし各地の大型小売店などでは現在でも、この時期になると盆行事の準備に関はるさまざまな商品を並べた一角が設けられる。それらを目にする時、先祖から連綿と受け継がれてきた風習が、若干形を変へながらも依然として日本人の暮らしになくてはならない行事でるといふことを改めて実感させられる。

我々日本人は古来、人の御霊は幽世たる「あの世」から現世、すなはち「この世」にやってきて肉体に鎮まり、死とともに再び「あの世」に還ると信じてきた。つまり幽世は、例へば仏教でいふ西方浄土のやうに現世から遙かに隔絶した場所などに存在するのではなく、あくまで現世との繋がりを持った世界として認識してきたといふことだらう。

祖霊が常に我々の身近にあり、子孫の生活と繁栄を見守りながら「この世」と「あの世」とを行き来するといふ独特の考へ方を反映した盆行事は、大陸からの思想をも取り込みつつ、生命・魂が祖先から我々、そして子孫へと受け継がれるといふ「いのち」の連続性の観念とも相俟(あいま)って、わが国古来の死生観に基づく祖霊信仰のあり方、さらには祖先崇拝の伝統を今に伝へてゐるといへよう。

をりしも朝日新聞は7月30日付の朝刊で、親類・縁者等の「墓守」がゐない「無縁墓」から墓石が撤去され、人里離れた山中の「墓の墓」に集められたり、不法に投棄されたりする例が後を絶たないなど、「先祖代々受け継がれてきた墓が受難の時を迎へている」ことを一面記事として報じた。

当該記事と2面の関連記事では、都市部への人口流入と地方の過疎化、少子高齢化や未婚化など社会の急激な変容が墓の荒廃を加速させてゐることを強調。団塊の世代が75歳を超える「多死時代」の到来、未婚化にともなふ単身世帯の増加などにも触れながら、血縁に頼らない新たな墓のあり方にも言及してゐる。

一方、昨今は通夜や葬儀などの葬送儀礼をおこなはず、故人が息を引き取った病院などから火葬場へと直接向かふ、いはゆる「直葬」の件数が増加傾向にあるといふ。その理由としては、各家や個人の信仰の影響といふよりも、経費節減など経済優先の考へが働いてゐるやうだが、さらに、そもそも遺族の存在の有無や、故人と遺族との関係性などさまざまな要因があるだらう。

いづれにしても、葬送儀礼や墓との向き合ひ方の変化は、神葬祭をはじめ祖先の御霊和めを一つの核とする家庭祭祀にも大きな影響を及ぼす可能性を秘めてをり、斯界(しかい)としても決して看過(かんか)できない。

繰り返しになるが、祖霊を迎へて感謝を捧げるとともに、現世におけるそれぞれの出来事などを報告する盆行事は、今日まで連綿と受け継がれてきた日本人の風習であり、その信仰の核は未だ守り続けられてゐると信じて已(や)まない。

効率や生産性を優先させて大切なものを失ふのは、経済至上主義といはれる昨今の社会において何度となく繰り返されてきたことであるが、同じ過ちをこれ以上犯してはなるまい。

生命の尊さを思ひ、さらには先人の努力や自然の恵みに改めて想ひを馳せる盆の時期に、これらの世相が突き付ける課題は重い。未来永劫(みらいえいごう)に亙(わた)って守られるべき家庭のまつりの継承は、我々にとって大いに努力を要する問題であらう。

* 紙面通り 「 歴史的仮名遣ひ 」 で表記していますが、漢数字は数字に、一部ふりがなを明記してあります。