日本人に信仰する宗教を尋ねると、関わりや信仰の度合いに違いはあっても、仏教と答える人が多いことがわかります。そのような家庭でも神棚をまつり、神社に初詣や七五三などでお参りする機会もあると思われます。
古来、宗教に寛容な我が国では、村の祭礼や人生儀礼など、それらは地域共同体との関わりの中で大切な要素となってきました。そして、習俗や伝統として今でも守られています。
しかしながら、戦後宗教法人となった神社・仏閣と公(国や自治体)との関わりについて、〝 政教分離 〟を前提にして信教の自由までも侵されることがありうるのは事実です。
「国や自治体が地鎮祭などの宗教的行事に関わってもいいの?」「公務員が公的資格で神社やお寺を参拝してもいいの?」「神社の祭典費を自治会で徴収してもいいの?」「公共施設に神棚を設置してもいいの?」などについて、学者、文化人、宗教人などで組織する「政教を正す会」のわかりやすい説明で示してみたいと思います。
<問題>
国や自治体が地鎮祭や慰霊祭等の宗教行事に関わってもいいの?
国や自治体が主体となり、公共工事を行う際の地鎮祭や、災害・事故などの犠牲者を追悼する慰霊祭を行うことは政教分離違反になるのでしょうか?
<答え>
それらが社会儀礼の範疇(はんちゅう)であれば政教分離違反ではありません。
昭和52年7月に出された「津地鎮祭訴訟」最高裁大法廷判決において、「行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉になる」か否かをもって、憲法第20条3項にいう「宗教的活動」かどうかを判断するという、いわゆる「目的効果基準」が示されました。それに基づき、三重県津市が主催した地鎮祭は「社会の一般的慣習に従った儀礼を行うという専ら世俗的なもの」として合憲とされ、以後、この判例が司法界で定着しています。
一方、東日本大震災発生当時、遺体の供養をめぐり自治体が政教分離を理由に、身元不明の遺骨に対し何の慰霊の営みも行わず、それどころか、遺体の安置所となった公共施設において、僧侶などの宗教者に慰霊行為を一切行わせないことが報道され、問題となりました。
国や自治体が宗教的慰霊や追悼行事に関わっても政教分離違反とはなりません。その論拠となるのが平成5年10月28日に言い渡された「千葉県八街町仏式町民葬補助金訴訟」最高裁判決です。
この訴訟は、現町長を葬儀委員長として営まれた元町長2人の仏式町民葬に町費から補助金が出されたことや、町役場の職員が葬儀の事務を手伝ったことなどが憲法の政教分離規定に違反するとして、一町民が町長らを相手に補助金の返還を求めたものですが、地裁・高裁に続き最高裁も原告の主張を却けました。これも津地鎮祭訴訟最高裁判決にいう「目的効果基準」に基づいて合憲と判断したものです。
大きな災害や戦争などの犠牲者、または国や郷土に功績のあった人に対し、国や自治体が慰霊・追悼を行うのは世界共通の営みといえます。それがある程度の宗教性を帯びたとしても、宗教に対する援助、助長などにはなりません。
「 政教分離 」 問題-困ったときのQ&A (政教を正す会)平成25年12月1日発行